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なぜ、あなたのExcel在庫管理表は限界なのか ~基本的な構造の在庫管理システムと比較してみませんか?

棚に置いてある在庫風景
町のDX課

「はじめに」

日々の在庫管理、本当にお疲れ様です。特にExcelを使い、自社の業務に合わせて独自の管理表を運用されている方には、心から敬意を表します。その努力は、会社の資産を守るために非常に価値のある仕事です。

しかし、もしあなたが、

  • 費やす時間に、ストレスを感じ、
  • 懸命に運用しているのに、なぜか誤差が生じ、
  • その操作が、特定の人しか分からない「属人化」に陥っている と感じているなら。

この記事は、あなたのために書かれた記事です。

この記事では、世の中の多くの在庫管理システムが採用している、基本的な「正解」の考え方をご紹介します。

ここで解説する基本的な設計思想と、あなたがお使いのExcelファイルを見比べてみてください。そうすれば、あなたが毎日感じている「苦労」の本当の原因がどこにあるのか、その解決のヒントが、きっと見つかるはずです。

あなたの現場の痛みが、少しでも和らぐことを願って。

1章 Excel在庫管理が引き起こす「3つの苦労」

その1:データが「信用できない」苦労

  • 在庫マスターと移動履歴の二重入力の手間と、頻繁に起こる入力漏れ
  • 移動履歴がないため、一度ズレたら誤差の原因究明が出来ない

その2:ファイルが「触れない」苦労

  • 関数や数式が複雑化し、担当者以外は触れずPCに封印。日々の入力業務も担当者に依存し「属人化」が加速する
  • データが増えすぎてファイルが重くなり、開くだけでフリーズする

その3:現場と事務所が「分断される」苦労

  • 現場は結局、紙の在庫申請書を作成。事務所での再入力に多くの時間と手間を浪費している
  • その在庫申請書の回付忘れや、事務所での入力ミスが新たな誤差の原因を生み続ける

2章 正解の在庫システムの常識「在庫マスターと移動履歴の絶対分離」

実は私は長年の倉庫業のキャリアで、在庫管理システムそのものに困った経験がほとんどありません。なぜなら私が使ってきたシステムは、最初から当たり前とされていた非常に堅牢な基本構造で作られていたからです。途中で古い基幹システムから、新しい基幹システムに切り替わったこともありましたが、その基本的な考え方は何一つ変わっていませんでした。

その最も重要な基本構造とはたった一つ。「在庫マスター」と「移動履歴」を絶対に同じシート(テーブル)で管理しないということです

なぜ分離する必要があるのか。それは、この二つがそれぞれ絶対に欠かすことのできない、異なる役割を持っているからです。

なぜ「在庫マスター」と「移動履歴」の両方が必要なのか

もちろん、「在庫マスター」は現在の在庫状況を把握するために必須です。しかし、それと同じくらい「移動履歴」も重要です。それは、単に過去の誤差の原因を究明するためだけではありません。

  • 目的1:最大の目的は在庫マスターを人間の手入力から守るためです。 日々の在庫変動を「移動履歴」に入力することで初めて、「在庫マスター」の数字は移動履歴からシステムが機械的に更新するという、最も安全な運用が可能になります。
  • 目的2:入力ミスを構造的に防ぐため基本的な在庫システムでは、移動履歴に「-10」のようなマイナスの数字は使いません。数量は常にプラスの数字で入力します。「区分」列などを設け「入庫」「出庫」といった種別を選び、どの操作が行われたかを明確にし、入力ミスを防ぎます。後の分析にも区分は活用できます。
  • 目的3:現在庫は「在庫マスター」。履歴は「移動履歴」と役割を分解することによって、すっきりと見やすい管理表が実現可能になります。無理やり一緒にした管理表では横長や縦長になり、見づらく非効率な管理表になってしまいます

Excelの仕様は非常に柔軟なため、やろうと思えばこれらを一つのシートにまとめることが出来てしまいます。しかし、その柔軟さこそが多くの混乱とエラーを生む「あだ」となっているのです。

3章 正解の在庫システムが大切にする思想「データベースに触らせない」

そして、先ほど挙げた3つの目的の中でも最も重要な「在庫マスターを人間の手入力から守る」という考え方。これを突き詰めたものが、最も大切にする思想「ユーザーにデータベースに直接触らせない」ということなのです。

なぜ、在庫マスターを直接編集してはいけないのか

在庫マスターの数字を、人間が直接手で触れば触るほど、間違うリスクは増えていきます。

  • 在庫数を単純に入力し間違えるリスク。
  • 入出庫数を自分で計算して、その計算を間違えるリスク。
  • 在庫が切れていることに気づき、慌てて発注業務を追加するなど複数の操作が重なることで、さらにリスクは高まります。

Excelは非常に便利で、どのセルでも自由に触れてしまう仕様です。しかし在庫管理においては、その触りやすさが致命的な欠陥となるのです。

人は間違える。だから「仕組み」で守る

正解のシステム設計の原点は、「人間は、必ず間違えるものだ」という、人間への深い理解と信頼にあります。「間違えないように注意する」という精神論ではなく、「そもそも、人間が間違いようのない仕組み(システム)を作る」こと。これこそが、本来目指すべきゴールです。

そのためにデータベース(テーブル)から、目的に応じたビュー(閲覧・入力画面)を切り分けて作成します。

このように、役割を完全に分離することで、データの心臓部を守り、誰もが安全にそして安心して使えるシステムが実現できるのです。これが私が長年見てきた「正解」のシステムの姿です。

4章 正解の在庫システムが実践する「理論在庫」という考え方

「在庫数」とは、手で入力するものではなく「計算結果」である

では、正解のシステムは在庫数をどうやって管理しているのか。その答えが「理論在庫」という考え方です。

これは、ある時点の在庫数(例えば、期首在庫又は棚卸後の実数)を元に、その後の全ての「移動履歴」を足し引きして、システムが自動計算した在庫数のことです。「こうあるはず」の在庫数であり、人が手で入力するものではありません。

移動履歴に現在庫列は不要

なぜ「理論在庫」で管理すると、入力が最小限で済むのか

この考え方を採用すると、日々の業務は劇的にシンプルになります。担当者は、「入庫した」「出庫した」という事実を、移動履歴に記録するだけ。現在の在庫数がいくつか、などと計算する必要はありません。それは全て、システムが勝手にリアルタイムで計算してくれるからです。

理論在庫の計算の仕方

なぜ「理論在庫」は、経営の武器になるのか

そして、このモデルの最大のメリットは、全ての「移動履歴」が、正確なデータとして蓄積されていくことです。これにより、「どの商品が、いつ、どれだけ動いているか」を正確に分析できるようになります。このデータは、単なる在庫管理を超え、将来の需要予測や、戦略的な発注計画を立てるための、貴重な経営資産となるのです。

5章 応用編:「止めない」と「間違えない」〜目的で変わる在庫管理の“正解”〜

ここまで解説してきた「絶対分離」と「理論在庫」という基本原則は、専門家が設計する在庫管理システムに共通する土台です。しかし、その土台の上にどのような家を建てるかは、あなたのビジネスが「何を一番大切にするか」によって変わってきます。

そこではビジネスの目的によって、主に2つの異なる在庫管理モデルを使い分けます。

モデルA:「生産を止めない」を重要視する、資材在庫管理

製造業における「資材」の在庫管理で、最も避けなければならない事態は何か。それは、資材の欠品によって、工場の生産ラインを止めてしまうことです。

そのため資材在庫の管理では、理論在庫と実在庫の間に多少の誤差(あそび)が発生することは許容しつつも、「いつ、何が、いくつ必要になるか」を正確に把握し、欠品を防ぐことが最優先されます。

このモデルを応用すれば発注情報と生産計画と連携させて、将来の「予測在庫」を把握することも可能です。これにより「生産計画に対して、資材は足りているか?」という問いに常に明確な答えを出すことができます。

現在庫数 + 発注済入荷数 - 生産計画数 = 予測在庫

予測在庫説明

モデルB:「お客様の約束を間違えない」を重要視する、製品在庫管理

一方で、お客様に出荷する「製品」の在庫管理では「間違えないこと」が重要です。

出荷した実績こそが全てであり、理論在庫と実在庫は、常に完璧に一致している必要があります。もし1個でもズレが生じれば、それはお客様との信頼を揺るがす大問題です。そのため、ズレが発覚した際には、即座に原因を究明する厳密さが求められます。

もちろん、このモデルでも過去の「履歴をビューで確認できる」ことは言うまでもありません。「あのお客様に、いつ、何を、いくつ出荷したか」という記録は、お客様からの問い合わせ対応や、将来のビジネス分析において、非常に重要な資産となります。

取引先別の出庫履歴一覧

おわりに:あなたのExcel在庫表を今一度見直してください

ここまで、多くの在庫管理システムが採用している、基本的な「正解」の考え方をご紹介してきました。

在庫マスターと移動履歴の「絶対分離」「データベースに直接触らせない思想」、そして「理論在庫」という発想。これらの基本的な在庫管理システムとご自身のExcel在庫管理表と比べて何が違い、どこに日々の苦労の原因がありそうか見えてきたでしょうか。

この記事でご紹介した考え方を参考に、あなたのExcel在庫管理表が少しでも改善できれば、それ以上に嬉しいことはありません。あなたの現場の痛みが少しでも和らぐことを、心から願っております。

そして最後に、これまで見てきた日々の細かな苦労は、実はもっと大きな問題へと繋がっています。それはこうした目に見えない課題とコストが、静かに会社の業績を圧迫しているという事実です。

今後も未来永劫続くこの課題を解決するための「費用」ではなくて「投資」として、自社専用の業務改善アプリを導入するというのも一つの有効な方法だと思います。

もしこの記事で解説したようなシステムの考え方や、動画でご紹介したアプリにご興味がございましたら、お気軽にご相談ください。

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町のDX課:平沼勇一
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ユーザー出身の実践型DXパートナー(Microsoft認定:PL-900)Power Platform・Google Workspace・RPAツールなどを活用し、中小企業の皆様の業務改善を実現するDX推進パートナーとして伴走サポートいたします。
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